すいしゃごやのにっし
水車小屋の日誌

冒頭文

一 今度東京へ戻つてからの住むべき部屋を頼む意味の手紙を八代龍太に書くつもりで、炉端で鉛筆を削つた。酒を飲んでゐる平次と倉造が、茶わんの杯をさして、村境の茶屋に三味線の技に長けたひとりの貌麗しい酌女が現れてゆききの遊冶郎のあぶらをしぼつてゐるとのことであるから見参に赴かうではないかと誘つた。賛成の旨を応へ、手紙一本書く間を待ち給へ、と二階へあがつた。窓からは、暮色の波に揺れる一面の稲田が

文字遣い

新字旧仮名

初出

「帝国大學新聞 第四九八号」帝国大學新聞社、1933(昭和8)年10月23日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日