「がくせいけいしょう」とかぜ
「学生警鐘」と風

冒頭文

氷嚢の下 旅まくら 熱になやみて風を聴く とり落した手鏡の 破片(かけら)にうつる いくつものわが顔 湖(うみ)はひかりて ふるさとは遠い          * 夜をこめて吹き荒んだ風が、次の日もまたその次の日も絶え間もなく鳴りつづけてゐるといふ——そのやうな風に私はこの町ではぢめて出遇つた。硝子戸を隔てて軒先から仰ぐ灰色の空に花びらが舞ひあがつて雪のやうである。まく

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第三十巻第七号(七月号)」新潮社、1933(昭和8)年7月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日