しゃしんにそえて (みやこのともへおくったてがみ)
写真に添えて (都の友へ送つた手紙)

冒頭文

この家の納屋で僕は斯んな奇妙な自転車を発見した。 御覧の如く前輪は恰も水車のやうに大きく、後の輪がお盆のやうに小さい地金製の三輪車であるが、然も之が成人(おとな)の乗用車(ロードスター)なんだぜ。この家の隠居から聞く処に依ると、この三輪車は我国に初めて自転車が輸入された当座僕の祖父が満身の得意を持して乗り廻したものゝ由である。彼が山高帽子を被り袴の股立ちを執つて物凄い勢ひでペタルを踏みな

文字遣い

新字旧仮名

初出

「モダン日本 第四巻第一号(新年特大号)」文藝春秋社、1933(昭和8)年1月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日