わたしのまんねんひつ
私の万年筆

冒頭文

西暦一九〇三年の?月——日露の講和会議が米のポーツマスに開催されると決定された数ヶ月前に、一人の日本学生が、急にホワイトハウスの何課かに雇入れられました。その青年は何も学術に秀れてゐたからとかといふ理由ではなく、近くのカレツヂに籍を置く、たつたひとりの日本人といふだけの資格で、臨時雇ひの栄を蒙つたのです。彼の仕事といふのは官邸の下級吏員から日本の風俗や習慣に就いて質問を享けた場合に、それに就いて知

文字遣い

新字旧仮名

初出

「婦人サロン 第四巻第十号(秋季十月特大号)」文藝春秋社、1932(昭和7)年10月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日