ぶんがくとはなんぞや |
文学とは何ぞや |
冒頭文
上 その科目は、何であつたか今私は忘却してしまつたが、その科目の受持教授は、数年前に物故された片上伸(かたかみしん)先生であつた。そして私たち学生(文学科)は、おそろしい卒業試験を迎へてゐたのである。当時、片上先生といへば学生連の間に、其稀有なる厳格な教授ぶりで、或者には神の如く崇拝され、或者には鬼の如く怖れられてゐた。私は何時も教室の一番背後の隅の席で、ノートは拡げてはゐるものの、教授
文字遣い
新字旧仮名
初出
「読売新聞 第一九九六五号、第一九九六六号、第一九九六九号」読売新聞社、1932(昭和7)年9月16日、17日、20日
底本
- 牧野信一全集第四巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年6月20日