だいおんじくん!
大音寺君!

冒頭文

いつも僕は野球の期節になると何よりも先に屹度大音寺君のことを思ひ出す。早稲田の岸、谷口、加藤等の頃だつたから今から十余年も前のことだ。僕は余り教室へ出ることを好まない文科の学生で、いつも独り法師で、大してフアンといふ程の者でもなかつたのだが、天気が好いと運動場へ来てぼんやりと、選手の練習を何時迄でも見物してゐるのが慣ひであつた。 その日も僕はガランとしたスタンドで、当時「逆モウシヨン」と

文字遣い

新字旧仮名

初出

「モダン日本 通巻二十一号(六月野球号)」文藝春秋社、1932(昭和7)年6月1日

底本

  • 牧野信一全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年6月20日