むすめとドリアン
娘とドリアン

冒頭文

一 すゝきの穂が白んで、山道で行きちがふ子供達から青い蜜柑の香気がかがれる。——夕暮にちかい時分に岡の裏側にある競馬場へ行つて見ると、「シーズン」が近づいたといふので日毎に練習馬の数が増えてゐる。 僕は、馬や競馬に特別の興味を持つたことはないが、散歩に出かけるとそこの岡の上の木さくによりかゝつて、下に、盆地になつて見降される競馬場を中々面白く見物するやうになつてゐる。晴れの日の事は

文字遣い

新字旧仮名

初出

「東京朝日新聞 第一五五八八号」1929(昭和4)年9月28日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日