ごがつのはじめ
五月のはじめ

冒頭文

一日晴 明方五時、時計は壊れてゐるが、空や影や光の具合で大概見当がつく、——売薬嗜眠剤の悪夢に倦きたので旬日の禁を犯して洋酒を摂る。漸くにして陶然たる頃、窓方(まどべ)の明るみも亦仄かとなる。水眼鏡の眼を視開いて水底をさ迷はん夏の日のことを思ふ。B兄妹に起される、途上にて出遇ひたるといふ余の母の言伝を寄す——生母の病気見舞に二旬以来滞京中のS女(妻)は明夕帰宅の由。N女(Bの令妹)を徒歩にて帰らし

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第二十四巻第六号(六月号)」新潮社、1927(昭和2)年6月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日