ばんしゅんにっき
晩春日記

冒頭文

(四月——日) また、眼を醒すと夕方だ。とゞけてある弁当籠を開いてウヰスキーを二三杯飲むと、はつきり眼が醒る。鰯には手が出ない。セロリを噛む。 手紙を書くので明方までかゝつてしまつた、春の晩、灯の下で手紙を書く——これは、いくつになつても余の胸を和やかにさせる、春になると君は手紙を寄す人だ……などゝ云はれたことがある。 (次の日) 眼を醒すと、また夕暮時だ。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「随筆 第二巻第五号(五月号)」人文会出版部、1927(昭和2)年5月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日