ざつだんしょう
雑談抄

冒頭文

私の友達のBは、今或る望遠鏡製作会社の検査係りといふ役目を務めてゐます。終日望遠鏡を眼にあてゝゐるのが仕事なのです。会社への往復と食事時間と夜の睡眠時間以外にはBの眼から双眼鏡が離れないのです。 B「この仕事を、あと半年も続けたら僕は双眼鏡を普通の、例へば近視の人がその眼鏡なしには行動出来ないと同じやうに、双眼鏡を年中かけてゐなければ、どんな行動も出来なくなるかも知れないよ?」 私

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝時報 第二十五号」文藝時報社、1927(昭和2)年1月10日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日