あやふやなこと
あやふやなこと

冒頭文

記者。お忙しいところへ、甚だ恐縮ですけれど、「私が処女作を発表するまで」と云ふやうなことに就いて、何かお話して下さいませんか。 牧野。処女作は、学生時分——早稲田に居る間——に、二つ書いた。どつちが先だか忘れて了つたが、「爪」と云ふのと、「闘戦勝仏」と云ふのとである。「爪」を書いたのは慥か冬だつた。そして「闘戦勝仏」の方は夏だつた。兎も角、どつちが先だか判然しないが、非常な怠け者で、この

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文章倶楽部 第十巻第九号(九月号)」新潮社、1925(大正14)年9月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日