わがやのずいひつ
吾家の随筆

冒頭文

私は、初歩英語読本が随分好きだつた。往年それらの聚集モノメニアに陥つて、海外の知友の助けまでかりて幅は三尺位ひだが四段になつてゐる書架を一杯以上にしたことがある。十年も前のことなんだが、その為に英語のほんとの勉強を疎かにして今もつて初歩英語以上の知識は備はらず、馬鹿を見たと思ふこともある。だがその文庫は随分私を悦ばせて呉れた。モノメニアには違ひなかつたのだ、単純なものを悦び始めれば限りがないからな

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 第三巻第六号(六月号)」1925(大正14)年6月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日