よわ(ひめられたはこ)
余話(秘められた箱)

冒頭文

厳格らしい母だつた。 幼時余は、母に、論語を学び、二宮尊徳の修身を聴講し、ナシヨナル・りいどる巻の一に依つて英語を手ほどかれ、和訳すゐんとん万国史を講義された。それらの記憶は、酷く曖昧である。論語では、母のそれでは、友アリ遠方ヨリ来ル云々に就いての解釈を朧気に憶えてゐる。ナシヨナル・りいどるでは、母がそれを購ふ時「なしよなる・りいどるの巻の一……」と云つたので、何やら余は、ハツとしたこと

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新小説 第三十巻第五号 臨時増刊「天才泉鏡花」」春陽堂、1925(大正14)年5月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日