しょうちくざをみて(えんじゃくのこと)
松竹座を見て(延若のこと)

冒頭文

実川延若(じつかはえんじやく)といふ役者を、自分は初めて見たのである。本物の芝居はそんなに見ないが田舎に居る時分でも新演芸などの芝居雑誌は古くから見てゐるので、あまり見つけない役者でもそんなに始めて見るやうな気のしない自分だつた。 実川延若もその一人に相違ないのだ。写真で見てゐた延若は、自分はにくにくしかつた。いつだつたか忘れたがたしか新演芸だつたか、他の雑誌だつたかに役者の趣味といふ見

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新演藝 第九巻第十一号(十一月号)」玄文社、1924(大正13)年11月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日