そぼのきょうくん
祖母の教訓

冒頭文

実家を離れて、ひとり住ひをして見ると、私は祖母のことを往々思ひ出す、一昨年の春、七十余歳の老衰病で静かに歿くなつた母方の祖母である。 何年か前の学生時分、東京で永くひとり住ひをしたが、一週間に一度は屹度実家へ帰つたものだ。「一週間に一度」は妙だが——当時稀に見る怠惰学生だつた自分は、土曜日も日曜日もあつたものぢやなかつたのだが、帰る時は必ず土曜日を定めて帰り、月曜日の朝きちんと再び帰京す

文字遣い

新字旧仮名

初出

「読売新聞 第一六八四五号」読売新聞社、1924(大正13)年2月12日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日