よのれんあいかん
予の恋愛観

冒頭文

先日東京から遊びにきた(古典派洋画家と自ら称ふ)友人と珍しく僕は海辺を歩ひた。大きな松の傍にきた時彼は突然「うむ……これか……」と叫んで立ち止つた。で僕が怪し気な顔をすると彼は「君は此処に住んでゐてこれを知らないのか。」と更に怪し気な顔で僕を見返つた。さうゆうわけで僕が驚いたのではない。彼の調子が余りに唐突だつたからである。紅葉山人の記念碑で僕は前から知つてゐた。僕は全く彼の気持にそぐはなかつたの

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新小説 第二十八巻第六号(六月号)」春陽堂、1923(大正12)年6月1日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日