きんせんのはなし
金銭の話

冒頭文

宵越しの金は持たぬなどといふ例の江戸つ子氣質は、いまは國家のためにもゆゆしき罪惡で、なんとかして二、三千圓も貯金してお國の役に立ちたいと思ふものの、どういふわけかお金が殘らぬ。むかしの藝術家たちには、とかく貯金をいやしむ風習があつて、赤貧洗ふが如き状態を以て潔しとしてゐた樣子であつたが、いまはそのやうな特殊の生活態度などはゆるされぬ。一億國民ひとしく貯蓄にいそしまなければならぬ重大な時期であると、

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「雜誌日本」1943(昭和18)年10月1日

底本

  • 太宰治全集11
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月25日