こおるアラベスク
凍るアラベスク

冒頭文

一 風の寒い黄昏(たそがれ)だった。勝子(かつこ)は有楽町駅の高い石段を降りると、三十近い職業婦人の落着いた足どりで、自動車の込合った中を通り抜けて、銀座の方へ急いだ。 勝子は東京郊外に住んではいても、銀座へは一年に一度か二度しか来なかった。郊外の下宿から、毎日体操教師として近くの小さい女学校に通うほかには、滅多に外に出たことがなかった。 やや茶色がかった皮膚には健康

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1928(昭和3)年1月

底本

  • 「新青年」傑作選 幻の探偵雑誌10
  • 光文社文庫、光文社
  • 2002(平成14)年2月20日