とうげにかんするに、さんのこうさつ
峠に関する二、三の考察

冒頭文

一 山の彼方 ビョルンソンのアルネの歌は哀調であるけれども、我々日本人にはよくその情合がわからない。日本も諾威(ノルウェー)に劣らぬ山国で、一々の盆地に一々の村、国も郡も村も多くは山脈を以て境しているが、その山たるや大抵春は躑躅(つつじ)山桜の咲く山で、決してアルネの故郷の如く越え難き雪の高嶺ではない。山の彼方の平野と海とは、登れば常に見える。他郷ながら相応の親しみがある。中世の生活を最

文字遣い

新字新仮名

初出

「太陽」1910(明治43)年3月

底本

  • 山の旅 明治・大正篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2003(平成15)年9月17日