はるのかり |
春の雁 |
冒頭文
春(はる)の雁(かり) からっとよく晴れた昼間ほど、手持ち不沙汰(ぶさた)にひっそりしている色街(いろまち)であった。この深川では、夜などは見たこともないが、かえって昼間はどうかすると、御旅(おたび)の裏の草ッ原で、子を連れて狐が陽(ひ)なたに遊んでいたりする事があるという。 ——通船楼(つうせんろう)の若いおかみさんは、 「何だえ、包み始めてさ。……負けずに持って帰るつもり
文字遣い
新字新仮名
初出
「オール読物 臨時増刊号」1937(昭和12)年4月
底本
- 柳生月影抄 名作短編集(二)
- 吉川英治歴史時代文庫、講談社
- 1990(平成2)年9月11日