おに

冒頭文

一 「——お待ちかねでいらっしゃる。何、そのままの支度でさし支(つか)えありますまい。すぐ庭口へ」 と、近習番(きんじゅうばん)に促(うなが)されると、棟方与右衛門(むなかたよえもん)は、よけいに足も進まず、気も晦(くら)くなってしまう。 案のじょうである。 大書院へ出ていた君侯の面(おもて)には、焦躁(しょうそう)のすじが立っていた。与右衛門が土へ手をつくとすぐ、

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール読物 一月号」1937(昭和12)年1月号

底本

  • 柳生月影抄 名作短編集(二)
  • 吉川英治歴史時代文庫、講談社
  • 1990(平成2)年9月11日