おおたにぎょうぶ
大谷刑部

冒頭文

馬と兵と女 七月の上旬である。唐黍(とうきび)のからからとうごく間に、積層雲の高い空が焦(や)けきッた鉄板みたいにじいんと照りつけていた。 ——真っ黄いろな埃(ほこり)がつづく。 淀(よど)を発した騎馬、糧車、荷駄、砲隊、銃隊などの甲冑(かっちゅう)の列が、朝から晩まで、そして今日でもう七日の間も、東海道の乾きあがった道を、続々と、江州路から関ヶ原を通り、遠く奥州方面

文字遣い

新字新仮名

初出

「現代二月号」1936(昭和11)年

底本

  • 柳生月影抄 名作短編集(二)
  • 吉川英治歴史時代文庫、講談社
  • 1990(平成2)年9月11日