べんがらこたつ
べんがら炬燵

冒頭文

雪の後 北がわの屋根には、まだ雪が残っているのであろう、廂(ひさし)の下から室内は、広いので、灯がほしいほど薄暗いが、南の雀口(すずめぐち)にわずかばかりつよい陽の光が刎(は)ね返(かえ)っていた。きのうにつづいて、終日(ひねもす)、退屈な音を繰りかえしている雨だれの無聊(ぶりょう)さをやぶるように、地面へ雪の落ちる音が、時々、ずしんと、十七人の腸(はらわた)にひびいた。 太平

文字遣い

新字新仮名

初出

「週刊朝日 新春特別号」1934(昭和9)年

底本

  • 柳生月影抄 名作短編集(二)
  • 吉川英治歴史時代文庫、講談社
  • 1990(平成2)年9月11日