しほんたいへいき 03 みなかみじょう
私本太平記 03 みなかみ帖

冒頭文

石の降る夜(よ) 古市(ふるち)の朝は、舟の櫓音(ろおと)やら車の音で明けはじめる。 ほどなく、散所民(さんじょみん)のわめき声だの、赤子の泣き声。そして、市(いち)の騒音も陽と共に高くなり、やがて型どおりな毎日の生態と砂塵が附近一帯をたち籠(こ)めてくる。 「まだ帰らぬの」 「……帰りませんなあ」 出屋敷(でやしき)の板かべの一間から、日野俊基は、外ばかり見ていた。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 私本太平記(二)
  • 吉川英治歴史時代文庫、講談社
  • 1990(平成2)年2月11日