とうせんのひ
当選の日

冒頭文

(一) まづしい作家のこと こんど、國民新聞の短篇小説コンクールに當選したので、その日のことを、正直に書いて見ようと思ふ。私は、ことしのお正月に、甲府の人と平凡な見合ひ結婚をして、けれども私には一錢の貯金も無し、すぐに東京で家を持つわけに行かなかつた。家の敷金として、百圓くらゐ用意しなければならぬし、その他家財道具一切を買はなければならぬし、そのためには、どうしても、もう百圓は必要であら

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「國民新聞 第一七〇四六号~一七〇四八号」1939(昭和14)年5月9日~11日

底本

  • 太宰治全集11
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月25日