しらないひと
知らない人

冒頭文

ことしの正月は、さんざんでありました。五日すぎから、腰の右方に腫物ができて、粗末にしてゐたら次第にそれが成長し、十五日までは酒を呑んだりして不安の氣持をごまかしてゐましたが、たうとう十六日からは、寢たつきりになつてしまひました。惡寒疼痛、二、三日は、夜もろくに眠れませんでした。手術は、いやなので無二膏といふ膏藥を患部に貼り、それだけでも心細いので、いま流行してゐるらしい、れいの「二筒のズルフオンア

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「書物展望 第十巻第三号」1940(昭和15)年3月1日

底本

  • 太宰治全集11
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月25日