トソンラン
土城廊

冒頭文

一 牛車や荷馬車、貨物自動車等のごったがえしている場末の鉄道踏切を渡ると、左の方へ小さな田圃路が折れている。その辺りからは路もぬかるみ、左右の水溜りでは雨蛙が威勢よく騒いでいた。小雨は音もなく夕暮の沼地をしっとりと濡らしている。 二人が、お互い黙々と歩いている中に、もう辺りは暗くなった。いくらか屠殺場の附近がぼうっと薄明るいだけだった。淡い電灯の光芒は水田の稲の穂がしらを白っぽく照らし、跫音

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸首都」1940(昭和15)年2月号

底本

  • 光の中に 金史良作品集
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 1999(平成11)年4月10日