マリ・デル
マリ・デル

冒頭文

その晩は身体(からだ)があいていた。オペラの歌姫のナターリヤ・アンドレーエヴナ・ブローニナ(嫁入り先の姓で言えばニキーチナだが)は、全身を安息にうち任せて寝室に横になっていた。彼女は快い夢見ごこちのうちに、どこか遠い町にお祖母さんや伯母さんと一緒に暮している自分の小さな娘のことを思い浮べる。……彼女にとっては見物や花束や新聞の短評や贔負の人々よりも、この子供の方がよっぽど大切だった。子供のことなら

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • チェーホフ全集 4
  • 中央公論社
  • 1960(昭和35)年10月15日