てんさい
天才

冒頭文

避暑がてら、士官の後家さんの別荘に間借りをしている画家のエゴール・サヴィチは、いま自分の部屋の寝床に腰かけて、朝のメランコリイに耽っている最中である。庭はもうすっかり秋の眺めになっている。重苦しい、すこぶる拙く出来あがった層雲が、折角の大空を台なしにしている。肌を刺し貫くような冷たい風が吹き、樹木は情なさそうな泣き面をして一方へばかり身をねじ曲げている。大気のなかにも地の上にも、黄色い木の葉がくる

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • チェーホフ全集 5
  • 中央公論社
  • 1960(昭和35)年9月15日