Ⅰ 真澄(ますみ)はその晩も台所へ往って、酒宴(さかもり)の後しまつをしている婢(じょちゅう)から、二本の残酒(のこりざけ)と一皿の肴(さかな)をもらって来て飲んでいた。事務に不熱心と云うことで一年余り勤めていた会社をしくじり、母の妹の縁づいている家で世話になって勤め口を捜しているが、折悪しく戦後の不景気に出くわしたので口が見つからないけれども、生れつきの暢気(のんき)な彼は、台所の酒を盗み出し