さんぐうがえり
参宮がえり

冒頭文

明治五年比(ごろ)の晩春の夕方、伊良湖岬(いらこざき)の手前の磯(いそ)に寄せて来た漁船があった。それは参宮(さんぐう)帰りの客を乗せたもので、五十前後に見える父親と、二十歳(はたち)位になる忰(せがれ)の二人伴(づれ)であった。 舟は波のうねりのすくない岩陰に繋(つな)がれて陸(おか)へは橋板(はしいた)が渡された。その舟には顔の渋紙色をした六十に近い老人と三十位の巌丈(がんじょう)な

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本怪談大全 第二巻 幽霊の館
  • 国書刊行会
  • 1995(平成7)年8月2日