夕月が射(さ)して虫が鳴いていた。益雄(ますお)はその虫の声に耳を傾けながら跫音(あしおと)をささないようにと脚下(あしもと)に注意して歩いていた。そこには芒(すすき)の穂があり櫟(くぬぎ)の枝があった。 それは静かな晩で潮(うしお)の音もしなかった。その海岸に一週間ばかりいて好きな俳句を作り、飽(あ)いて来ると水彩画を画(えが)いていた益雄は、父親から呼ばれて明日(あす)の朝の汽車で東京へ帰