ふじのやぐら
藤の瓔珞

冒頭文

Ⅰ 憲一は裏庭づたいに林の方へ歩いて往った。そこは栃木県の某温泉場で、下には澄(す)みきったK川の流れがあって、対岸にそそりたった山やまの緑をひたしていた。松(まつ)杉(すぎ)楢(なら)などの疎(まばら)に生えた林の中には、落ちかかった斜陽(ゆうひ)が微(かすか)な光を投げていた。そこには躑躅(つつじ)が咲き残り、皐月(さつき)が咲き、胸毛の白い小鳥は嫩葉(わかば)の陰で囀(さえず)って

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本怪談大全 第一巻 女怪の館
  • 国書刊行会
  • 1995(平成7)年7月10日