ろくがつじゅうくにち
六月十九日

冒頭文

なんの用意も無しに原稿用紙にむかつた。かういふのを本當の隨筆といふのかも知れない。けふは、六月十九日である。晴天である。私の生れた日は明治四十二年の六月十九日である。私は子供の頃、妙にひがんで、自分を父母のほんたうの子ではないと思ひ込んでゐた事があつた。兄弟中で自分ひとりだけが、のけものにされてゐるやうな氣がしてゐた。容貌がまづかつたので、一家のものから何かとかまはれ、それで次第にひがんだのかも知

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「博浪沙 第五巻第七号」1940(昭和15年)7月5日

底本

  • 太宰治全集11
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月25日