むげつものがたり
無月物語

冒頭文

一 後白河法皇の院政中、京の加茂の川原でめずらしい死罪が行われた。 大宝律には、笞(ち)、杖(じょう)、徒(ず)、流(る)、死(し)と、五刑が規定されているが、聖武天皇以来、代々の天皇はみな熱心な仏教の帰依者で、仏法尊信のあまり、刑をすこしでも軽くしてやることをこのうえもない功徳だとし、とりわけ死んだものは二度と生かされぬというご趣意から、大赦とか、常赦とか、さまざまな恩典をつ

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール讀物」1950(昭和25)年10月号

底本

  • 久生十蘭短篇選
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2009(平成21)年 5月15日