おろかなちち
愚かな父

冒頭文

一 月のいゝ晩がつゞく。月がいゝとわたしは団扇(うちは)を持つて縁先に出る。こんなわたしにしろ、また隣の二階家の四角な影の二尺ばかり上に照る月にしろ、月を見れば空想ぐらゐはする。わたしはきつと娘の事を考へる。 許嫁(いひなづけ)の男の両親のもとに家事見習に行つてゐるその娘から、このところ一寸(ちよつと)便が来ない。このわたしを忘れて、目新らしい生活に夢中になつてゐるのかしらん。それならばまあ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新小説」1923(大正12)年1月

底本

  • 現代日本文學大系 62 牧野信一 稻垣足穗 十一谷義三郎 犬養健 中河與一 今東光集
  • 筑摩書房
  • 1973(昭和48)年4月24日