おぼろよ |
| 朧夜 |
冒頭文
春に近い夕方だ。官立寄宿学校のひと棟(むね)になつてゐる少年寮では、大勢の者が芝生の広い中庭に降りてあちこちに塊(かたま)つてゐた。当時評判だつたハレー彗星(すゐせい)がいよ〳〵現はれるのを観察しようと云ふのである。五十を越した篤学者で、強度の近眼鏡をかけた、痩(や)せて半白の髯(ひげ)を生(は)やした寮長は、懐中から厚ぼつたい銀側時計を出して時間を見計つてゐた。が、さういふ間も、生徒が不精してス
文字遣い
新字旧仮名
初出
「改造」1923(大正12)年4月
底本
- 現代日本文學大系 62 牧野信一 稻垣足穗 十一谷義三郎 犬養健 中河與一 今東光集
- 筑摩書房
- 1973(昭和48)年4月24日