あらびあじんエルアフイ
亜剌比亜人エルアフイ

冒頭文

一 マラソン競走の優勝者、仏蘭西(フランス)領アルジェリイ生れのエルアフイは少しばかり跛足(びつこ)を引きながら地下室の浴場に入つた。 一九二八年八月五日の夕暮であつた。そこはアムステルダム市外にあるオリンピック競技場に附属した浴場だ。八月とはいふものの、北欧のことであるから、アフリカの沙漠(さばく)に育つた彼はすでに膚(はだへ)に秋を感じてゐた。午後の三時から二十六哩(マイル

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論」1929(昭和4)年1月

底本

  • 現代日本文學大系 62
  • 筑摩書房
  • 1973(昭和48)年4月24日