いわし

冒頭文

越生と書いておごせという。埼玉も西の方の、山へ寄った小さな町である。近くに梅の名所があるので、近年は人も知って新月ヶ瀬などというが、それ程の所でもない。然し梅の咲く頃、坂戸の町からバスで越生の方へ向いて行くと、先ず秩父の方の連山が濃い紫にくっきりと見える。町へはいって板葺(いたぶき)の低い家並みの後ろに、裸木の雑木山が、風の無いぽか〳〵日に照らされて居るのを見ると、如何にも早春らしい気がする。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆32 魚
  • 作品社
  • 1985(昭和60)年6月25日