ののはか
野の墓

冒頭文

流離のうちに秋が来た。まだ彼岸(ひがん)だといふのに、ある朝、合服(あひふく)を着て往来へ出たら、日蔭の片側が寒くて、われ知らず日の当る方を歩いて居た。やはり信濃路だなと思つた。毎朝見る姨捨山の姿がくつきりとして来て、空はいよ〳〵青かつた。 この町へ来てもう三月(みつき)近くになる。終戦にはなつたが、このさき日本がどうなるのか分らないやうに、私達の身の振り方も、どうすればよいのか、皆目(

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆55 葬
  • 作品社
  • 1987(昭和62)年5月25日