ぼしぞう
母子像

冒頭文

進駐軍、厚木キャンプの近くにある、聖ジョセフ学院中学部の初年級の担任教諭が、受持の生徒のことで、地区の警察署から呼出しを受けた。 年配の司法主任が、知的な顔をした婦人警官を連れて調室に入ってきた。 「お呼びたてして、恐縮でした」と軽く会釈すると、事務机を挟んで教諭と向きあう椅子に掛けた。尾花が白い穂波をあげて揺れているのが、横手の窓から見えた。 「こちらは少年相談所の補導さん……

文字遣い

新字新仮名

初出

「讀賣新聞」1954(昭和29)年3月26~28日

底本

  • 久生十蘭短篇選
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2009(平成21)年 5月15日