チロルのあき(ひとまく)
チロルの秋(一幕)

冒頭文

時  一九二〇年の晩秋処  墺伊の国境に近きチロル・アルプスの小邑コルチナ。人 アマノステラエリザホテル・パンシヨンの食堂。午後七時。ストーブの火が燃えてゐる。ステラ、喪服、ヴエールで眼を覆つてゐる。珈琲を飲みながら、書物の頁を繰る。エリザ、珈琲注ぎを持ちたるまま、傍らに立つ。ほかに誰もゐない。 エリザ  明日はあなたがおたち、明後日はアマノさん……。 さうすると……あとは、此のホテルも空つぽ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「演劇新潮 第一年第九号」1924(大正13)年9月1日

底本

  • 岸田國士全集1
  • 岩波書店
  • 1989(平成元)年11月8日