ろうざん
老残

冒頭文

終戦と共に東京の空が急に平穏にかへつたときは誰もがホツとしたであらう。が、それから当分の間、あの遠くでならす朝夕のサイレンの声が空襲警報のやうに聞えて、いやだつた。鳴らすやつもさうした錯覚をねらつて、からかひ半分にやつてゐるやうにさへ思へたものだ——進駐軍が蜿蜒(ゑんえん)幾十台ものトラックで米大使館の周辺に乗りつけるやトラックから一斉に飛び降りた兵隊らが、いきなり道路脇(わき)にじやあじやあと放

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論」1952(昭和23)年3月号

底本

  • 現代日本文學大系 49 葛西善藏 嘉村礒多 相馬泰三 川崎長太郎 宮地嘉六 木山捷平集
  • 筑摩書房
  • 1973(昭和48)年2月5日