とりひきにあらず
取引にあらず

冒頭文

人物 遠藤又蔵妻 なほ娘 きぬ学生床屋の主人若い男老紳士隣の細君職人 場所 東京の場末 時 冬のはじめ 煙草店の主人遠藤又蔵は、夕刊を読みながら、傍の娘きぬに話しかけてゐる。 又蔵  そんなこと云つて、お加代はあれでいくら取つてると思ふ。きぬ  先月から三十円になつたのよ。又蔵  だからさ、その三十円は、お前、みんな電車代とお化粧代になつちまうんだぜ。きぬ  知つてるわ。又蔵  知つてる……?

文字遣い

新字旧仮名

初出

「キング 第五巻第一号」1929(昭和4)年1月1日

底本

  • 岸田國士全集4
  • 岩波書店
  • 1990(平成2)年9月10日