ききょうのわかれ
桔梗の別れ

冒頭文

一 ある高原の避暑地。落葉松(からまつ)の森を背にしたテニスコートの傍(かたは)ら。日が落ちて、橙色の雲の一塊が、雪をいたゞいた遠い峰を覆つてゐる。今テニスを終つたばかりの四人、そのうちの女二人は境笛子と母の杉江である。そして、二人の青年は、金津朔郎と酒巻深である。 酒巻  明日は敵(かたき)を打ちませうね。笛子(ふえこ)さん。 笛子  明日は組を変へるんだわ。 杉江 

文字遣い

新字旧仮名

初出

「令女界 第九巻第八号」1930(昭和5)年8月1日

底本

  • 岸田國士全集4
  • 岩波書店
  • 1990(平成2)年9月10日