ここにおとうとあり
ここに弟あり

冒頭文

洪次郎 紅子 基一郎 東京市内のある裏通りで、玄関の二畳から奥の六畳へ是非とも茶の間を通つて行かねばならぬ不便な間取りの家。 座敷には瀬戸の丸火鉢が一つと、床の間にヴアイオリンのケースが置いてある。茶の間には粗未な鏡台。羽織を重ねたまゝの女の外出着が、だらしなく壁にかゝつてゐる。神棚の上に、麦藁帽子が仰向けにのつてゐることゝ、座敷と茶の間に跨つて、チヤブ台とも机ともつかぬものが、薬缶とイン

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 第九年第一号」1931(昭和6)年1月1日

底本

  • 岸田國士全集4
  • 岩波書店
  • 1990(平成2)年9月10日