ハムレット |
| ハムレット |
冒頭文
敗戦後一年目のこの夏、三千七百尺の高地の避暑地の、ホテルのヴェランダや霧の夜の別荘の炉辺でよく話題にのぼる老人があった。 それは輝くばかりの美しい白髪をいただき鶴のように清く痩せた、老年のゲエテ、リスト、パデレウスキなどの Phenotype(顕型)に属する壮厳な容貌をもった、六十歳ばかりの老人だが、このような霊性を帯びた深い表情が日本人の顔に発顕(はつげん)するのはごくまれなので、いったいど
文字遣い
新字新仮名
初出
「新青年」1946(昭和21)年10月号
底本
- 怪奇探偵小説傑作選3 久生十蘭集 ハムレット
- ちくま文庫、筑摩書房
- 2001(平成13)年4月10日