まいこよりすまへ
舞子より須磨へ

冒頭文

舞子の停車場に下りた時は夕暮方で、松の木に薄寒い風があった。誰も、下りたものがなかった。松の木の下を通って、右を見ても、左も見ても、賑かな通りもなければ、人の群っているのも目に入らない。海は程近くあるということだけが、空の色、松風の音で分るが、まだ海の姿は見えなかった。私は、松並木のある、長い通りを往ったり、来たりして、何の宿屋に泊ろうかと思った。ちょうど、一軒の一品料理店の前に、赤い旗が下ってい

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 芸術は生動す
  • 国文社
  • 1982(昭和57)年3月30日