しぶおんせんのあき
渋温泉の秋

冒頭文

九月の始めであるのに、もはや十月の気候のように感ぜられた日もある。日々に、東京から来た客は帰って、温泉場には、派手な女の姿が見られなくなった。一雨毎に、冷気を増して寂(さ)びれるばかりである。 朝早く馬が、向いの宿屋の前に繋がれた。其のうちに三十四五の病身らしい女がはんてんを着て敷蒲団を二枚馬の脊(せ)に重ねて、其の上に座った。頭には、菅笠(すげがさ)を被って前に風呂敷包を乗せている。草

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 芸術は生動す
  • 国文社
  • 1982(昭和57)年3月30日