ぞくはいかいし ぶんたろうのし
続俳諧師 ――文太郎の死――

冒頭文

一 豫て手紙で言つて來て居つた春三郎の兄の佐治文太郎の上京が事實となつて現はれて來た。上野の停車場に文太郎を迎へに行つた春三郎は自分の兄が斯く迄に田舍者だとは思はなかつた。古風な綿ネルのシャツを著て大きな鞄を重さうに提げて人込みの中をうろ〳〵としてゐた。それから漸く春三郎を見つけて、 「おゝ春三郎か」と言つた人の善ささうな顏には嬉しさが包み切れなかつた。「私持たう」と言つて春三郎が其鞄を受取ら

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「國民新聞」1909(明治42)年1月~6月

底本

  • 俳諧師・續俳諧師
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1952(昭和27)年8月25日